「すべての遺産を長女に相続させる」旨の遺言書を作成した事例
- 2022.12.26
相談内容
当事務所に遺言書作成の相談に来られたのは、以前に、亡くなったお父様(被相続人)の遺産分割協議と相続税申告の依頼を当事務所にされた、被相続人の長女さんでした。長女の話によれば、父の相続の際には遺言書が無かったため、相続人間で揉めていたら大変なことになっていた、母は私が一緒に住んで世話をしており、最後まで面倒を看るつもりでいるので、母の財産は私がすべて相続することにしたい、母も私に全財産を相続させる遺言書を作ることで納得してもらっているとのことでした。
そこで、後日、相談者の母親ご本人に事務所にお越しいただき、詳しくお話を聞きました。お母様は80歳と高齢で、認知症もやや進行している様子が見て取れましたが、他方で、長女には大変献身的に世話をしてもらっているので、財産をすべて長女にあげたいという意思ははっきりと示されました。
当事務所の対応方針
一般的に、すべての遺産を特定の相続人に相続させるとする遺言書を作成してしまうと、他の相続人の遺留分を侵害することになり、相続開始後、紛争に発展する火種になってしまうことから、当事務所では、他の相続人の遺留分にも配慮した遺言書を作成するよう指導することにしています。
しかしながら、本件においては、すべての財産を長女に相続させたいとのご本人の意思が明確でありました。
また、かつては、相続開始後、他の相続人から遺留分減殺請求がなされると、遺産すべてについて各相続人の遺留分減殺率に応じた共有持分が生じることとなり、特に不動産や自社株が遺産に含まれる場合、遺贈を受けた多数持分権者と遺留分を請求する少数持分権者との間の紛争が複雑化する大きな要因となっていましたが、相続法改正に伴い、令和元年7月1日以降に相続が発生した場合、遺留分制度について、遺留分侵害額請求という金銭請求に一本化されることとなりました。
本件では、遺言書を作成されるお母様にはご自宅以外に、夫から生前贈与を受けたり相続により取得した多額の預貯金があったことから、遺言によりお母様の遺産を相続した依頼者は、他の相続人から遺留分侵害額を支払うよう請求されても支払えるだけの十分な資金的余裕が見込まれました。
結果
以上のような総合的判断のもと、お母様のご意向に従い、最寄りの公証役場にて、すべての遺産を長女に相続させる旨の公正証書遺言を作成することとなりました。
なお、遺産に含まれる預貯金について、上記のように、特定の相続人に相続させる旨の遺言書が遺されていたとしても、金融機関によっては、当該遺言書だけでは被相続人の預貯金の解約に応じず、相続人全員の同意を求める対応をしている所もあります。
担当弁護士の所感
このような、遺言書を作成した意義を没却させる、金融機関の不合理な対応にも困らないよう、預貯金の解約を伴う遺言書を作成する際には、必ず遺言執行者を選任する旨の条項を入れておくべきといえます。上記のケースにおいても、当事務所所属の弁護士を遺言執行者とする条項を入れておくこととしました。