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遺言執行者の選任

 <チャート図 遺言執行者の就任から終了までの流れ>

 

ア 遺言執行者の指定

遺言書作成にあたり、遺言執行者の指定は,必ず必要になる場合と,必ずしも必要で

ない場合があります。

遺言執行者が必要的な場合とは,①認知(民7812項,戸64条),②推定相続人の廃除,排除の取消し(民893894),③一般財団法人設立のための定款作成(一般法人1522項),およびその財産の拠出の履行(一般法人1571項)です。

これに対して,遺言執行者が任意的な場合とは,①相続に関する遺言事項のうち,法定相続分を超える相続分の指定,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言,相続財産の処分に関する遺言事項のうち,遺贈および信託の設定,祖先の祭祀主宰者の指定,生命保険金の受取人の指定・変更をいいます。

任意的な場合には,遺言執行者が存在するときには遺言執行者が執行し,いない場合には相続人が共同して執行します。

イ 遺言執行者の選任

遺言執行者がいないとき,または遺言執行者がなくなったときには,家庭裁判所は,利害関係人の請求によって,遺言執行者を選任することができます。

遺言執行者がないときとは,①遺言者が遺言執行者を指定しなかったとき,②遺言執行者の指定の委託を受けた者がその指定をしなかったとき,③指定された遺言執行者が欠格者であるとき,④指定された遺言執行者が就職を承諾しないとき,を指します。遺言執行者がなくなったときとは,遺言執行者について,死亡,失踪,解任,辞任,資格喪失などの事由が生じたときです。

ウ 家庭裁判所への申立て

   遺言執行者がいないとき,または遺言執行者がなくなったときは,家庭裁判所は利害関係人の請求によって遺言執行者を選任することができます(民1010)。

利害関係人とは,相続人,受遺者,相続債権者,受遺者の債権者など,遺言の執行

に関して法律上の利害関係を有する者です。申立てを行う裁判所(管轄)は,相続開始地(遺言者死亡の住所地)の家庭裁判所です(家事事件手続法2091項)。

エ 審判手続

   申立て後,審判前に,家庭裁判所は,遺言執行者の候補者に意見を聴き(家事事件手続法2102項),就職の諾否および適格能力の存否を確認します。

   選任の審判は,その旨が遺言執行者に告知されます。選任の審判には不服申し立てはできませんが,申立却下の審判に対しては,利害関係人が2週間以内に即時抗告を申し立てることができます(家事事件手続法2143号,861項)。

  • 就職の承諾と拒絶

遺言執行者になるのは,遺言書により指定される場合と,家庭裁判所により選任される場合があり,いずれの場合も,就職を受諾する場合には,遅滞なく相続人に対して就職を受諾する旨の通知を行う必要があります。就職を辞退する場合には,通知は必要ありませんが,通知しておいた方がよいと思われます。

   遺言執行者に指定された者が就職の諾否を明らかにしない場合には,相続人やその他利害関係人は,相当の期間を定めて就職の諾否を確答するよう催告することができます。

  ア 遺言執行者としての地位の成立

    遺言執行者となるべき者が就職に承諾した場合,遺言者が死亡したときにさかのぼって,遺言執行者に就職したことになります。

    遺言執行者への就職の諾否は,遺言執行者として指定された者が自由に決めることができ,遺言書で指定されていても就職しなければならないということはありません。

    遺言執行者には,相続人や受遺者もなることができますが,遺言認知の場合や,遺言によって推定相続人を廃除するような場合には,利害が対立することから,遺言執行者にはなれないと解されています。

なお,未成年者や破産者は,遺言執行者の欠格事由となっていますので,これらの場合には遺言執行者に就任することができません(民1009条)

  イ 就職の諾否や通知

    遺言執行者に指定された者は,その遺言の内容や遺言者との関係等を考慮して就職の諾否を決めますが,いずれにせよ,その理由を説明する必要はありません。

    遺言執行者に就職する場合には,直ちに任務を行わなければならず,遺言執行者は,任務開始後,遅滞なく,遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(民10072項)。この通知は,相続人の1人に行えば足りると考えられていますが,他の相続人やその他の利害関係人との関係を円滑にし,遺言内容の実現に向けて協力を得る観点からは,全ての相続人に対して通知を行うことが望ましいと言えます。

    就職の諾否が不明な場合には,相続人その他の利害関係人は,相当の期間を定めて,就職を承諾するか否かを確答するよう,遺言執行者に催促することができます。これに対して遺言執行者が確答しない場合には,就職を承諾したものとみなされます。

    就職を辞退する場合,通知は不要と解されています。もっとも,⑵のとおり,諾否を明示しない場合には,相続人らからの催告がなされ,期間内に確答しない場合には承諾したものとみなされますから,辞退する場合でもその旨を通知した方がよいといえます。

  • 遺言執行者の権利と義務

遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理や遺言執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しています(民1012①)。他方,相続人は,遺言の執行を妨害する行為ができません。

ここで,「必要な一切の行為」とは,相続財産の完治その他遺言の執行のために「相当かつ適切と認める行為」(最判S44.6.26),すなわち遺言者の真意に沿った行為であるか否かによって判断されますが,遺言執行者としては,遺言の内容から自身の責任において判断するほかありません。

遺言執行者が行いうる相続財産の管理としては,相続財産を調査し,必要に応じて相続財産の管理者からの引き渡しを受けるなどの行為が考えられ,さらにこれを妨害する者には,訴訟提起などを行うこともできます。

遺言執行者がいる場合,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず(民1013①1014①),これに反する相続人の処分行為は,原則として無効です(民1013②)。ただし,遺言の内容を知ることができない第三者との関係では,取引の安全を図る必要がるため,このような善意の第三者との関係では,相続人による処分行為は有効となります(民1013②但書)。

   遺言執行者の遺言の執行については,委任の規定が一部準用されます(民1012③1020)。具体的には,次の規定です。

   ・善良な管理者としての注意義務(民644

   ・相続人からの請求があった場合の報告義務(民645

   ・相続人のために受領した金銭その他の物や権利の引き渡し義務(民646

   ・相続人のために受領した金銭を自己のために消費した場合の補償義務(民647

   ・遺言執行のために必要な費用を支出した場合等の費用償還請求等(民650

   ・任務が終了したが,急迫の事情がある場合の緊急処分義務(民654

   ・委任事務終了自由を通知するまでの執行事務の継続(民655       

  • 選任後すぐに行うべき事項

遺言執行者に選任されたときは,遅滞なく相続財産の目録を作成し,相続人に交付しなければなりません(民1011①)。

   相続人は,遺言書が存在していることや,遺言執行者が選任されていることを知らない場合もあります。そこで,遺言執行者は,受遺者や金融機関等,遺言者との関係で権利義務を有すると思われる利害関係人に対して,遺言書の写しを添付して遺言執行者に就任したことを通知すべきです。

   その際には,遺言執行者には,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限があること(民1012①)や,遺言執行者が選任されている場合には,相続人は相続財産の処分や管理ができないことなどを事前に説明しておくことが望ましいと考えられます。

   相続財産の現況把握や管理として,遺言執行者は,遺言執行の対象となる財産の存否を確認したうえ,必要に応じて管理者から引渡しを受けるなどする必要があります。

また,遺言執行のうえで必要がある場合には,執行の対象物件を占有している第三者に対し,その引渡しを求めることもできます(大判昭151220民集19232283)。

具体的には次のような措置をとることが考えられます。

  ・不動産であれば,全部事項証明書(登記簿謄本)をとり,権利証や契約書等を保管者から引き継ぎ,不動産を実際に見に行って不動産の現況,使用状況等を把握する。

  ・預貯金であれば,金融機関や預貯金の種類,金額を調査し,預金通帳や銀行印等を保管者から引き継ぐ。金融機関に対しては遺言執行者への就任の通知をし,通帳がない場合には,残高証明書や取引明細の交付を求める。

  ・株券や証券等は,銘柄,酒類,所在,数量等を調査し,保管者から株券や証券,保管預り証,印鑑等の交付を受ける。

  ・貴金属等は,種類や数量を調査し,保管者から当該貴金属と保証書,鑑定書等の引渡しを受ける。

・貸金庫内の保管物については,設置されている金融機関に対し,遺言執行者への就任の通知や,遺言執行者の同意なく金庫の開閉をしないよう通知する。また,鍵は保管者から引渡しを受ける。

   受遺者は,遺言者の死亡後は,いつでも遺贈の放棄をすることができ,その効果は,遺言者の死亡時に遡って生じます(民986)ので,受遺者が遺贈の放棄をすると,遺言執行の内容が異なってきます。そこで,遺言執行者に就任したら,受遺者に対し,遺贈を受けるか否かの意思確認をすべきです。

  • 預貯金に関する執行

 遺言執行者には,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限があり(民1012①),相続人は相続財産の管理や処分を行うことはできません。そうであるにもかかわらず,以前は,金融機関は,遺言執行者が選任されている場合でも,相続人全員の保証を求める手続きを経て初めて払戻しに応じていたようです。相続人間の紛争に巻き込まれることを回避する狙いがあったと思われます。

 しかしながら,法律上は,遺言執行者の権限は,上記のとおり排他的なものであり,払戻しに際し,相続人らの承諾や保証は必要ありません。また,実際に遺言執行者から払戻請求訴訟が提起されれば,金融機関がこれを拒むことはできません。

 そこで,現在では,遺言執行者が選任されている場合には,その遺言執行者に対し,預金の払戻しに応じているようです。ただし,この場合にも払戻請求に必要な書類は種々あり(被相続人の戸籍・除籍謄本や相続人全員の戸籍謄本,預金名義人の預金通帳・届出印,遺言書原本など),各金融機関によって様々ですので,どのようなものが必要かについては,直接,金融機関に確認する必要があります。

  • 株式の執行

株式の遺贈の場合も,株式の売却代金の遺贈の場合も,まずは対象とされている株式

が存在することを調査する必要があります。そのうえで,株式の遺贈の場合は権利移転手続きを,売却代金の遺贈の場合は株式を公正な価格で売却したうえで,売却代金を受遺者に交付します。

ア 株式の存在を確認する手続き

遺言執行者は,遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しますので,まずは遺贈の対象となる株式が存在することを調査する必要があります。その際,証券会社や株式会社に対して照会を行う必要もあります。

株券が発行されている場合,遺言者が保管しているのであれば,遺言者の住居や貸金庫などを調査し,証券会社が保管している場合は,証券会社に照会をします。

上場会社の株式については,平成21年1月5日から,株券等電子化(株式等振替制度)が実施され,上場会社のすべての株式につき,株主権の管理は,証券保管振替機構や証券会社等により電子的に行われます。

上場会社の株式の存在確認調査は,それぞれ預託先の証券会社に照会することにより行います。その際の必要書類については,各証券会社に事前に問い合わせる必要があります。

株券不発行の場合には,遺贈の対象となる株式の存在を確認するため,株式払込金領収書や,株式申込書などの資料により調査します。

イ 株式の遺贈による権利移転手続き

株券が発行されている場合には,株券の交付により,株式の譲渡の効力が生じるので(会社法128①),受遺者が株券の交付を受けることで遺贈の効力が生じます。ただし,会社に対して権利を主張するためには,株主名簿の名義書換が必要です(会社130①②)ので,受遺者は,交付された株券をもって会社に対し,名義書換の手続きを行います。

上場会社の株式については,上記の株券等電子化により,株式の移転は,遺言者が 証券会社等の開設している口座から,受遺者の口座に株式を振り替えることにより効力が生じます。振替の手続きについては,各証券会社等によって異なるため,事前に確認が必要です。この場合の株主名簿の名義書換については,振替機関が,振替口座簿の内容に基づき,総株主通知を行うことで行われます。

株券不発行会社の株式の譲渡は,譲渡をするとの意思表示だけで譲渡の効力が生じま

すので,遺贈の場合も,遺言の効力が生じたときに,株式の遺贈の効力が生じます。ただし,遺贈の効力を会社および第三者に対抗し,株主としての権利を主張するには,株主名簿の名義書換が必要です。

譲渡制限株式の特定遺贈の場合には,会社の株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認(会社法139①)がなければ,譲渡の効力が発生しません。そこで,遺言執行者は,会社に対し,譲渡承認請求を行います(会社法136)。包括遺贈の場合には,遺贈の効力は承認手続きを経ることなく発生し,会社の側で受遺者に対する売渡請求(会社法174177)のみができることになります。

ウ 中小企業の代表者が株式を遺贈する場合

中小企業の代表者が保有していたその中小企業の株式を遺贈する場合には,「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下本項において「法」といいます。)の施行により,遺贈にかかる株式の価額を,遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入しない旨などの合意をすることができます。これは,受遺者が当該中小企業の代表者となり,かつ,議決権の過半数を有することになる場合にできます。

その際には,株式の遺贈に関する手続きに加えて次のような手続きが必要となります。

  • 遺贈にかかる株式の価額を,遺留分の算定の際算入しないこととするなどについて,推定相続人および後継者全員の書面による合意(法4①)
  • 上記の合意に加えて,当該後継者が後継さとしてふさわしくない行為などを行っ   

た場合に推定相続人がとりうる措置について,推定相続人および後継者全員の書面による合意(法4①)

  • ①の合意をした後継者が,合意から1か月以内に合意の要件該当性などについて,経済産業大臣の確認を受ける(法7①②)。
  • ③の確認を受けた後継者が,確認を受けたときから1か月以内に家庭裁判所の許可を受ける(法8)。
  • この家庭裁判所の許可を得ることによって,合意が効力をもつことになります(法8①・9
  • 株式の売却代金の遺贈の執行
  • 上場株式の場合,株式の売却は,証券会社等の口座間の振替えによって行います。その際の必要書類は,各証券会社に問い合わせる必要があります。
  • 非上場株式の場合,取引相場がないため,相続税や法人税,所得税の計算の際に用いられる方法などを用いて,できるだけ客観的な価格を算定し,算出された価格を参考に譲渡当事者間で価格交渉をすることになります。
  • 売却が成立した場合,遺言者は,受遺者に売却代金を交付します。   
  • 遺言執行者の解任

 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときには,利害関係人(相続人,受遺者等)は,家庭裁判所に対し,遺言執行者の解任を請求することができます(民1019①)。

 ア 解任事由

   遺言執行者は,就任後,遅滞なく,相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならず(民1011①),また,その職務に関し,相続人から請求があれば,いつでも事務処理状況を報告しなければなりません(民1012③,645)。

この目録交付や報告の義務は,遺産分割調停において調停委員を通じた間接的なものでは足りないとされる一方(大阪高決平成17119家月58751),相続財産をよく知る相続人の協力が得られないなどの事情で,財産目録の作成が困難である場合などは,必ずしも解任事由に当たらないとされる(広島高松江支決平349家月44951)など,その時点の事情に基づく判断がなされることになります。

依存執行者は「動産の保管にあたっては善良な管理者の注意,すなわち普通人が通常なすべき注意をもってその滅失,毀損,紛失または盗難を防がなくてはならない」とされています(大阪高決昭33630家月10739)。

したがって,このような義務に反した場合には,解任事由となります。

  イ その他正当な事由

    「正当な事由」があるときとは,アの任務懈怠と同程度の,遺言について適正な執行が期待できない事由です。

    個別的な判断となりますが,遺言執行者が相続人の一部と緊密な関係にある一方,意見が対立する他の相続人が存在するなどし,職務上の懈怠を指摘されることがなくても,相続人全員の信頼を得られないことが明確な案件である場合(東京高決昭4433判タ244315)などが挙げられます。

    他方で,相続人に対し,自己の名において訴えを提起したり,相続人と遺言執行者との遺言の解釈を異にすることをもって直ちにその解任を請求し得る正当の事由とすることはできないとされています。

ウ 解任の手続き

    利害関係人(相続人,受遺者等)は,相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所(家事手続法209①)に,遺言執行者の解任を請求することができます(民1019①,家事事件手続法39・別表1)。

    また,上記解任の申立ての審判が出る前に遺言執行者の職務を停止等させることが必要な場合,利害関係人は家庭裁判所に遺言執行者の職務の停止・代行者の選任を申し立てることもできます(家事事件手続法215)。

  • 「相続させる」旨の遺言における遺言執行者の対応

遺言の「相続させる」という文言は,原則として,遺産分割方法の指定であると考えられます。例外としては,遺言書の記載から遺贈であることが明らかであるか,遺贈と解すべき特段の事情がある場合です。そのため,遺産分割方法の指定であるとされれば,自宅建物は何らの行為も要せずとも,被相続人の死亡の時に直ちに当該相続人に承継されます。

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」という文言の遺言の法的性質について,遺言者の記載から遺贈であることが明らかであるか遺贈と解すべき特段の事情がない限り,遺産分割方法の指定と解されます。そのため,遺言書に記載された遺産は何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時に直ちに相続人が確定的に取得することとなります(最判平3419判時138424)。

   なお,「特段の事情」は,遺言作成の前後の事情,被相続人の生前の言動,遺言どおりに分割された場合に不都合はないか,遺言の効力を維持することで相続開始後の方が混乱を招かないかなど諸般の事情を総合的に検討する必要があります。

相続させる旨の遺言によって,被相続人死亡の時に直ちに相続人が遺産を確定的に取得するとしても,当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要となるわけではありません(最判平111216判時170261)ので,遺産の性質によっては遺言執行者において執行行為が必要となります。

  ア 不動産の場合,「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)は,原則として遺産分割方法の指定と考えられるため,被相続人の死亡時に直ちに「相続」を原因として承継されます。そのため,当該相続人は,「相続」を原因とする所有権移転登記を単独で申請することができます。

   また,特定財産承継遺言があった場合,遺言執行者は,当該相続人が対抗要件を具備するために必要な行為をすることができるとの規定が新設されました(民1014②)。  

そのため,遺言執行者も所有権移転登記の申請権限があることになります。

  イ 預貯金債権について特定財産承継遺言がなされた場合,遺言執行者は預貯金の払戻請求,預貯金の解約の申し入れをする権限を有します(民1014③本文)。ただし,預貯金の解約の申入れは,遺言で対象とされた財産が当該預貯金債権の「全部」である場合に限ります。

ウ なお,指定された相続人が遺言者よりも先に死亡した場合には,その代襲相続人に相続させる意思があったと解される場合を除き,当然に失効するとされています(東京地判平6713金判98344)ので,執行行為もしてはいけません。

  •  遺言による相続人の廃除

推定相続人のうち,相続欠格(民891)のように当然に相続資格をはく奪されるほど重大な事由ではないものの,被相続人に暴力をふるったりするなど,被相続人としては財産を相続させたくない場合があります。このような場合には,家庭裁判所が調停または審判によってその者の相続権をはく奪することができます。これが相続人の廃除です。相続人の廃除は,遺言で行うこともできますので(遺言廃除,民893),この遺言廃除の場合には,遺言執行者が家庭裁判所に対して廃除の請求を行うことになります(民893)。

   遺言には,特定の相続人を「廃除する」旨の文言が明記されていないものの,その

者を廃除するという趣旨ではないかと思われるものもあります。この場合,「廃除する」とは書かれていなくても,遺言書作成の経緯等遺言書外の事情と,遺言書の記載内容等から客観的に排除の意思が推認できる場合であれば,廃除の趣旨であると認められます。

   逆に,遺言書中に,「廃除する」との文言が用いられていても,その理由が明記され

ていないこともあります。法律上,廃除には一定の原因が必要ですので(民892),そのような原因があるか否かを判断する必要があります。

   遺言者の廃除の意思が明らかである以上,たとえ遺言にその理由が具体的に記載されていなくとも,やはり遺言書作成の経緯等から客観的に廃除原因の存在が認められる場合には,廃除の請求が認容されますので,遺言書に廃除の原因が記載されていなくても,廃除が認められることはあり得ます。

 

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