推定相続人のうちの一人に自分の財産をどうしても譲りたくない場合、どのような遺言書を作成すればいいでしょうか
- 2023.01.27
Q. 私には3人の子どもがいますが、長男は借金をしては私に肩代わりさせることを繰り返し、私の財産を勝手に処分した挙句、行方不明となっています。長男にだけは、私の財産を相続させたくありません。遺言書を作成して、長男に私の財産を相続させないようにしたいのですが、どのような方法を採ればいいでしょうか。
A. 被相続人にとって相続させたくないと感じさせるような言動をする者がいた場合,被相続人又は遺言執行者の請求に基づき,家庭裁判所が審判又は調停によってその者の相続権をはく奪することができます。これを推定相続人の廃除といいます。
相続人の廃除は,被相続人が生前に家庭裁判所に請求することによって行うこともできますが(生前廃除,民法892条),遺言で行うこともできます(遺言廃除,民法893条)。
民法は,廃除原因として①被相続人に対する虐待,②重大な侮辱,③著しい非行を挙げています(民法892条)。これらに該当するかどうかは個別具体的な事情に基づいて判断されるため一律の基準で決するのは非常に困難です。もっとも,質問にあるような事例と似た裁判例で,借金を重ねて被相続人に2000万円以上の金額を肩代りさせた上,債権者が被相続人宅に押し掛けるといった事態まで招いたことにより,約20年間被相続人の経済的・精神的に苦しめた子について,著しい非行に該当するとして廃除を認めた例があります(神戸家伊丹支審平20・10・17家月61・4・108)。
遺言により廃除を行う場合,単に遺言書に「〇〇を排除する」と記載しただけでは,遺言者が亡くなった後に直ちに廃除の効力が生じるわけではありません。遺言廃除の効力を発生させるには家庭裁判所による審判又は調停によることが必要です。遺言廃除の請求を行う者は,遺言執行者です。そのため,遺言において遺言執行者を定めておく必要があります。なお,実務上,廃除原因の認定は厳格になされているため,単に子が嫌いで財産を遺したくないといった程度の理由だけでは廃除が認められない可能性があります。遺言書においても,廃除の理由を具体的に記載しておくべきでしょう。