「相続させる」旨の遺言の場合、遺言執行者としてどのような対応をすればいいですか
- 2023.01.27
Q. 私は、昨年に亡くなった甲氏の遺言執行者に就任しました。甲氏の遺言書には「妻に自宅を相続させる」との記載がありました。遺言執行者として、どのような対応をすればいいでしょうか。
A. 遺言の「相続させる」という文言は,原則として,遺産分割方法の指定であると考えられます。例外としては,遺言書の記載から遺贈であることが明らかであるか,遺贈と解すべき特段の事情がある場合です。そのため,遺産分割方法の指定であるとされれば,自宅建物は何らの行為も要せずとも,被相続人の死亡の時に直ちに当該相続人に承継されます。
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」という文言の遺言の法的性質について,遺言者の記載から遺贈であることが明らかであるか遺贈と愛すべき特段の事情がない限り,遺産分割方法の指定と解されます。そのため,遺言書に記載された遺産は何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時に直ちに相続人が確定的に取得することとなります(最判平3・4・19判時1384・24)。
なお,「特段の事情」は,遺言作成の前後の事情,被相続人の生前の言動,遺言どおりに分割された場合に不都合はないか,遺言の効力を維持することで相続開始後の方が混乱を招かないかなど諸般の事情を総合的に検討する必要があります。
相続させる旨の遺言によって,遺産が被相続人死亡の時に直ちに周防族人が確定的に取得するとしても,当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要となるわけではありません(最判平11・12・16判時1702・61)ので,遺産の性質によっては遺言執行者において執行行為が必要となります。
不動産の場合
不動産の場合,「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)は,原則として遺産分割方法の指定と考えられるため,被相続人の死亡時に直ちに「相続」を原因として承継されます。そのため,当該相続人は,「相続」を原因とする所有権移転登記を単独で申請することができます。
また,特定財産承継遺言があった場合,遺言執行者は,当該相続人が対抗要件を具備するために必要な行為をすることができるとの規定が新設されました(民1014②)。そのため,遺言執行者も所有権移転登記の申請権限があることになります。
預貯金債権の場合
預貯金債権について特定財産承継遺言がなされた場合,遺言執行者は預貯金の払戻請求,預貯金の解約の申し入れをする権限を有します(民1014③本文)。ただし,預貯金の解約の申入れは,遺言で対象とされた財産が当該預貯金債権の「全部」である場合に限ります。
その他
なお,指定された相続人が遺言者よりも先に死亡した場合には,その代襲相続人に相続させる意思があったと解される場合を除き,当然に失効するとされています(東京地判平6・7・13金判983・44)ので,執行行為もしてはいけません。