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遺言書作成と遺留分

遺言書作成と遺留分

本来,遺言者は,自己の財産を自由に処分することができるのが原則です。

  しかしながら,この原則を無制限に認めてしまうと,被相続人とともに生活するなどして,被相続人とともに財産形成をしてきたと思われるような相続人や,相続人に扶養されてきたような方の利益が侵害されることがあります。

  そこで,個人の財産処分の自由と,一定の相続人の利益との調整を図るため,一定の相続人に対して,被相続人の財産の一部を留保することを保証する制度として遺留分を認めています。

遺留分を有するのは,「兄弟姉妹以外の相続人」です(民1042①)。したがって,配偶者,子又はその代襲相続人,子らが相続人にならない場合には直系尊属が遺留分権利者となります。

相続欠格者(民891),相続人の廃除の手続きを受けた者(民892),相続放棄をした者

(民939)は相続人ではないので,遺留分権利者とはなりません。ただし,相続欠格および 

相続人の廃除がなされた場合には,代襲相続が生じますので,これらの代襲相続人は遺

留分権利者となります。

遺留分の割合は,遺留分を算定するための財産の価額に①直系尊属のみが相続人である場合には3分の1,②それ以外の場合には2分の1となります(民1042①)。相続人が複数存在する場合には,それぞれの相続人の法定相続分に上記①②の割合を乗じて,当該相続人の遺留分の割合を算出することになります(民1042②)。

このように算出された遺留分を侵害されている遺留分権利者は,受贈者等に対し,遺留分侵害額請求権を行使することができます(民1046)。この遺留分侵害額請求権は,形成権であり,権利を行使することによって直ちに金銭支払請求権が発生します。

  • 遺留分侵害額の算定方法

  遺留分の算定の基礎となる財産の価額は,被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額に,贈与した財産の価額を加えた額から,債務の全額を控除した額です(民1043①)。なお,遺留分侵害額の算定時期は,相続開始時点ですので,相続人の1人が相続開始後に,被相続人の債務を弁済していたとしても,遺留分侵害額の算定には影響を与えません(最判平81126判時159266)。

被相続人が相続開始のときに有した財産とは,積極財産を意味し,祭祀財産については性質上算入しません。また被相続人の財産の中に,条件付きの権利や存続期間の不確定な権利など,価格の評価が困難な権利が含まれている場合もあります。そこで,民法では,これらの権利については,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価にしたがって,その価格を定めることとされています(民1043②)。

贈与した財産に関して,民法は,相続開始前の1年間にした贈与はすべて遺留分算定のための財産の価額に算入し,1年前の日より前にした贈与については,贈与当事者の双方が遺留分権利者に損害を与えることを知ってなした場合に限り,遺留分を算定するための財産の価額に算入されると規定しています(民1044)。

  相続人に対する贈与については,相続開始前10年間に行われた婚姻若しくは養子縁組のため又は整形の資本として受けた贈与の価額に限り,遺留分の算定に算入されます(民1044③)。

  なお,平成20年10月1日に施行された「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」においては,上記の民法上の遺留分の原則に対する特則が定められています。

  • 非嫡出子がいる場合の遺留分の算定割合

遺言によって,あまりにも自由な相続財産の処分を認めると,推定相続人の生活の安定を害することがあります。そのため,被相続人の財産処分の事由と推定相続人の諸利益との調整を図るために遺留分制度が設けられています(民1042以下)。

遺留分を有するのは,被相続人の兄弟姉妹を除く法定相続人で(民1042①),配偶者,子,直系尊属が遺留分を有することになります。

  婚姻関係にない男女間に生まれた子(非嫡出子)と父親との父子関係は,認知によって発生します。認知には,任意認知(民779)と,強制認知(民787本文)があり,強制認知は,父親の死亡後3年が経過するまで提起することができます(民787但書)。認知がなされると,子出生のときにさかのぼって,父親との間の権利義務が生じますので(民784本文),認知がなされれば,非嫡出子も,遺留分を有することになります。

遺留分の割合については,相続人が直系尊属のみの場合は3分の1,それ以外のときは2分の1とされています。相続人が複数いる場合には,上記割合に遺留分権利者の法定相続分の割合を乗じたものが,各人の遺留分の割合となります。平成25年12月11日から,嫡出子と非嫡出子との間の相続分の割合は等しいものとされています。

(4)中小企業の事業承継円滑化のための支援策

中小企業の旧代表者が後継者に全株式を贈与したとしても,遺留分による制約があるため,株式等が分散する可能性があります。

民法は,遺留分の事前放棄を認めていますが,これは,遺留分を放棄する者が,自分自身で家庭裁判所に許可を求めて申立てをしなければなりませんので,後継者でない者が自  

ら進んでこのような申立てを行うことはあまり期待できません。また,遺留分の事前放

棄では,予め特定の財産について遺留分算定の基礎財産に算入すべき価額を固定するこ

とができません。

  法は,このような制約を解決するため,推定相続人全員の合意によって,旧代表者から後継者に贈与された株式等について,遺留分算定の基礎財産への算入について一定の制限を設けられるようにし,経営権の基盤となる株式等の分散による会社経営の不安定化を回避しようとしています。

法は,推定相続人全員の合意によって,所定の手続きを経て,後継者が旧代表者からの贈与等により取得した株式等について,①その価額を遺留分算定基礎財産に算入しないこと,②遺留分算定基礎財産に算入すべき価額を予め固定すること,という特例の適用を受けられる制度を設けました。

  この特例の適用を受ける当事者は次のとおりです。

 ・特例中小会社(法3①)

   法2条の資本金の額等の要件を満たす中小企業のうち,一定期間以上継続して事業を行っているものとして経済産業省令で定める要件に該当する会社をいいます。

   ただし,金融商品取引所に上場されている株式または店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株強い会社は,特例中小会社から除かれます。

 ・旧代表者(法3②)

   特例中小会社の代表者であった者(代表者である者を含みます。)で,他の者に対して当該中小会社の株式等を贈与した者です。ここでいう贈与とは,単に贈与契約を締結するだけでなく,株券の交付など,すでに履行されていることが必要です。

 ・推定相続人(法3④)

   民法上の推定相続人とは異なり,旧代表者の兄弟姉妹およびこれらの子は除かれます。

 ・会社事業後継者(法3③9

   旧代表者から,特例中小会社の株式等の贈与を受けた者,またはその株式等受贈者から株式等を相続によって取得した者で,特例中小会社の総株主又は総社員の議決権の過半数を有し,かつ,特例中法会社の代表者である者です。

   この「総株主」からは,株主総会において決議をすることができる事項の全部について議決権を行使することができない株主は除かれます。

 ・旧個人事業者(法3④)

   一定期間以上継続して事業を子なっていた個人である中小企業者であった者として経済産業省令で定める要件に該当する者であって,事業用資産の全部の贈与をした者をいいます。

 ・個人事業後継者(法3⑤)

   旧個人事業者から事業用資産の全部の贈与を受けた個人である中小企業者又は事業用資産受贈者から事業用資産の全部を相続により取得した個人である中小企業者であって,当該事業用資産をその営む事業の用に供している者をいいます。

  ・非後継者

   会社事業後継者や個人事業後継者以外の推定相続人です。

旧代表者の推定相続人はおよび愛車事業後継者は,その全員の合意によって,書面により,後継者が取得した株式労に関する遺留分の算定について次の内容の定めをすることができます。ただし,当該会社事業承継者が所有する当該特例中小会社の株式等のうち,当該定めの対象株式を差し引いた残りの議決権数が,総株主又は総社員の議決権の100分の50を超える数となる場合は,この限りではありません。合意の対象となる株式等を除いても,会社事業後継者が議決権の過半数を確保できる場合には,特例を認める必要がないからです。