相続税を考慮した遺言書の作成とは、どのようなものですか
- 2023.01.27
Q. 遺言書を作成するにあたり、相続税について、どのように考慮すべきでしょか。
A. 遺言者は、相続人らの課税価格の合計額が基礎控除額を超える見通しの場合に、相続税を考慮した遺言書を作成すべきと言えます。相続税の税額軽減のための様々な特例措置が制度上認められていますが、これらの特例措置は、遺言の内容をどのようなものにするかによって、その適用の有無・範囲が変わってくることになるからです。
ここでは、遺言書を作成する際に考慮すべき代表的な相続税の特例などについて、説明いたします。
小規模宅地の特例の考慮
相続開始直前において被相続人等の事業又は居住の用に供されていた宅地等については、相続人等が事業又は居住を継続する等、一定の要件のもと、宅地等の評価が一定の限度面積の範囲まで、最大80%減額される特例(小規模宅地の特例)が受けられます(租税特別措置法69条の4)。一般に、宅地は遺産の中でも最も高額になりがちな財産の一つであるところ、その評価額が最大8割減額されることになるので、小規模宅地の特例の適用により、絶大な節税効果が見込まれることになります。
但し、相続税の申告期限までに遺産分割が未了の宅地等については、この特例の適用を受けることができません。未分割の状態のまま相続税の申告期限を迎えた場合には、いったん、この特例の適用なしで計算した相続税額で申告・納付しなければなりません。
したがって、事業用又は居住用の宅地等については、遺言により、事業又は居住を継続する者に相続させると定めておくことが、相続税対策の観点から、非常に重要となります。
配偶者の税額軽減制度の考慮
配偶者の税額軽減制度とは、被相続人の配偶者は、遺産の形成に寄与していることが多く、また、配偶者自身の相続後の生活保障を図る必要があることに鑑み、配偶者が相続により財産を取得した場合に認められる大幅な税額軽減措置のことを言います(相続税法19条の2第1項)。
具体的には、配偶者が相続による取得する財産の課税価格が1億6000万円以下であれば、配偶者の納付すべき相続税額はゼロになります。また、配偶者の取得する財産の課税価格が1億6000万円を超える場合にも、相続税の総額にその者の法定相続分を乗じた金額が控除されます。
但し、小規模宅地の特例と同様、相続税の申告期限までに配偶者の取得する財産が決まっていない場合には、この特例の適用なしで計算した相続税額で申告・納付しなければなりません。したがって、遺言により、配偶者がどの財産を取得するかを定めておくことが、相続税対策の観点から、非常に重要となります。
二次相続までのトータルでの相続税負担の考慮
孫に財産を取得させる旨の遺言は、本来、被相続人から子への相続、子から孫への相続という、2回の相続を経るべきところを、1回の相続により財産承継を実現することができることから、しばしば活用されます。
もっとも、被相続人の配偶者、父母、子、代襲相続人である孫以外の者については、通常の相続税の算出税額に20%を加算した金額が相続税額となります(相続税法18条1項)。仮に孫が被相続人の養子となっていたとしても、代襲相続人となっていない限り、相続税は2割増しとなります。
また、前述の配偶者の税額軽減措置に頼りすぎて、配偶者のあまりに高額な遺産を相続させる旨の遺言を作成してしまうと、被相続人が死亡した際の相続税額は減らすことができますが、将来、配偶者が死亡した際の相続税負担が大きくなってしまいます。
被相続人死亡時、配偶者死亡時と、相続税を二重に課税される可能性を考えると、一次相続において、単純に配偶者に多くの遺産を相続させればいいとはいえず、配偶者死亡時の2次相続の際の相続税も考慮したトータルの相続税負担を考える必要があると言えます。
また、先ほどの相続税が2割増しとなる孫への遺贈も、たとえ2割増しとなったとしても、1回の相続税負担で済むというメリットもあり、被相続人から子、子から孫へと2回の相続の場合に比べて、トータルで相続税負担が軽くなる場合もありえます。
個々のケースによって異なりますので、遺言書を作成する際には、1次相続と2次相続の相続税額をよくシミュレーションした上で作成することが求められます。